上場株式等の配当がある場合、総合課税・申告分離課税・申告不要の3つの課税方式があってそれぞれ自由に選べるのですが、「所得税」と「住民税」で別々の方法を選べるっていうのは、ご存知でしょうか。
配当がある場合の3つの課税方式とは
上場株式等の配当がある場合、総合課税・申告分離課税・申告不要それぞれ自由に選べます。
どれが自分にとって有利なのかは状況によって変わります。
- 総合課税…不動産所得・事業所得・給与所得など他の所得と合算された上で、累進課税(所得が高くなると税率も高くなる)で税金を計算する方法。上場株式等の配当の場合には「配当控除」があり、配当の10%を所得税から控除、配当の2.8%を住民税から控除できる。
- 申告分離課税…他の所得とは合算せずに、上場株式の配当や上場株式の損失などと相殺させて、所得税15.315%、住民税5%で完結させる方法。
- 申告不要…その名の通り、申告はしない。そもそも配当をもらうときは所得税15.315%、住民税5%が天引きされている。ただし住民税だけ申告不要を選択する場合には、住民税だけ「申告不要」という申告をする必要がある。
外国株式、非上場株式、投資信託の配当の場合には取り扱いが異なります。
総合課税が有利な場合
所得税・住民税それぞれの総合課税・申告分離の税率比較
上記で説明しましたように、総合課税を選択する場合、他の所得と合算されて累進課税で計算するので、他の所得が高い場合には高い税率になってしまいます。
しかし、配当控除といって、配当の10%を所得税から控除してくれるのがメリットです。
では所得がいくらまでだったら総合課税を選択するのがよいのでしょうか。
実際に配当控除を含めた所得税・住民税の税率を見てましょう。
まずは所得税からです。
配当をもらう時、15%を天引きされて入金されます。申告分離課税・申告不要を選択する場合には天引きされた15%で課税が終了します。
一方総合課税の場合には所得に応じて税率が変わっていくのですが、下記の表から分かるように、所得900万円が分岐点になっています。
所得が900万円以下の場合には総合課税を選択するのが有利です。
900万円を超えてしまうと、申告分離か申告不要が有利となります。
所得税 | ||
---|---|---|
課税される所得 | 配当控除を含めた総合課税 | 申告分離又は申告不要 |
~195万円 | 5%-10%=-5% | 15% |
195万円~330万円 | 10%-10%=0% | |
330万円~695万円 | 20%-10%=10% | |
695万円~900万円 | 23%-10%=13% | |
900万円~1,000万円 | 33%-10%=23% | |
1,000万円~1,800万円 | 33%-5%=28% | |
1,800万円~4,000万円 | 40%-5%=35% | |
4,000万円~ | 45%-5%=40% |
次は住民税です。
住民税の場合、総合課税を選択すると配当控除を含めても最低で7.2%税金がかかってしまいます。一方申告分離・申告不要であれば天引きされた5%で課税が終わります。
住民税は総合課税よりも申告分離か申告不要を選択するのが有利です。
住民税 | ||
---|---|---|
課税される所得 | 配当控除を含めた総合課税 | 申告分離又は申告不要 |
~1,000万円 | 10%-2.8%=7.2% | 5% |
1,000万円~ | 10%-1.4%=8.6% |
結論としては、株の譲渡損が発生していないことが前提で(後述します)
- 所得900万円以下は所得税は総合課税、住民税は申告分離か申告不要を選択
- 所得900万円超は所得税・住民税ともに申告分離か申告不要を選択
となります。
総合課税を選択すると株の譲渡損があっても配当と譲渡損の損益通算(相殺すること)は使えません。
所得税は総合課税、住民税は申告不要って選べるの?
そもそも、所得税と住民税で別々の課税方式を選択することができるのか?ということですが、結論から言うと、所得税と住民税は別々の課税方式を選択した申告書を提出することができます。
通常、所得税の申告書を税務署に提出した場合、その申告書の内容がお住まいの市区町村にも流れるので、住民税の申告書は提出は必要ないです。
税務署に提出する申告書を総合課税で選択して住民税の申告書を提出しなかった場合、住民税も自動的に総合課税となってしまうため税金が高くなってしまいますが、あえて「申告不要」を選択した住民税の申告書を提出することによって住民税を少なくすることができます。
紛らわしいのですが、「申告不要」という「申告」を住民税側で行う必要があります。「申告不要」だからといって何もしなくていい訳ではありませんのでご注意ください。
住民税の申告書の提出期限は?
いつまでに住民税の申告書の提出しなければならないのかですが、本来だと所得税の申告書を提出する前に住民税の申告書を提出すべきですが、住民税の納税通知書が送達される6月までに提出すればよいとしている自治体もあるので、お住まいの自治体に確認されたほうがよいと思います。
まぁ通常、3月に所得税の確定申告書を作るわけですから、一緒に住民税の申告書を作ってしまえばよいかと。
ちなみに、所得税は電子申告が可能ですが、住民税の申告だと電子申告はできないので紙での申告になります(できる自治体もあるのかもしれませんが、さいたま市ではできませんでした)。
申告分離が有利な場合
株の譲渡損の金額が大きいと申告分離が有利
申告分離が有利な場合とは、過去から繰り越されてきた株の譲渡損がある場合や、複数の証券会社の口座をお持ちの場合で、他の証券会社の口座で発生した株の譲渡損がある場合です。
譲渡損がある場合には、配当金の収入と損益通算(相殺すること)ができますので、損益通算された部分の税金の還付を受けることができます。
・去年から繰り越されてきた株の譲渡損△120,000円、今年の配当金100,000円
→配当時に天引きされた100,000円×20%=20,000円の還付を受ける事ができます。
ちなみに、同一の証券会社で、今年発生した譲渡損と配当がある場合で特定口座を選択している場合には証券会社が損益通算を行っているのでわざわざ申告する必要はありません。
総合課税と申告分離で比較が必要な場合
考えなくてはならないのが、譲渡損が少ないケースです。
この場合には総合課税と申告分離でどっちが有利かを比較しなくてはなりません。
去年から繰り越されてきた株の譲渡損△20,000円、今年の配当金100,000円
申告分離の税金
損益通算を行うと80,000円×20%=16,000円の税金を納付
総合課税の場合
譲渡損が使えないので100,000円丸々税金がかかります。
所得に応じて税率が変わるので、上記の表より
所得195万円~330万円の場合には、0%+7.2%=7.2%(所得税+住民税)になるので、100,000円×7.2%=7,200円の税金の納付
所得330万円~695万円の場合には、10%+7.2%=17.2%(所得税+住民税)になるので、100,000円×17.2%=17,200円の税金の納付
以上より所得330万円以下であれば総合課税が有利、330万円超であれば申告分離が有利となります。
税金計算上では申告分離が有利な場合でも、健康保険料や保育料の算定では住民税の計算を使っているので、住民税側で「申告不要」な申告の方が有利な場合もあります。
まとめ
配当がある場合には、総合課税・分離課税・申告不要の3つの選択肢があります。
どの方法が有利になるかは所得の多寡によっても、譲渡損の有無によっても、変わってきますので、ご自身の状況に応じてうまく選択できるようにしていただければと思います。
【編集後記】
確定申告が終わり、ほっと一息ついているところです。
そして暖かくなってきたのでカメラを持って、そろそろ菜の花や桜を撮りに行きたいなと考えています。
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