消費税の簡易課税制度の計算方法とメリット・デメリット・届出書について

売上規模が少ない場合、消費税の計算方法で「簡易課税」という制度を選べるのは聞いたことある方は多いと思いますが、「簡易課税」とはどのようなものなのか、そしてそのメリット・デメリットはどういうものがあるのか、までは中々知る機会がないと思います。
そこで今回は簡易課税と本則課税の違いを絡めながら、詳しく、具体例を使って、簡易課税について説明したいと思います。

簡易課税の簡易とはどういう意味?

「簡易」という意味ですが、消費税申告書の計算上、売上しか使わなくて良いです、仕入・経費に係る消費税は使いませんよ~、という意味です。
それなら、簡易課税の方が計算が楽ちんだな、なんて安易に選んではいけません。
簡易課税を選んだ方が納税金額が少なくなるケースもあれば、その逆もあります。
ではどうやって判断するのかですが、事業者の業種これからの事業プランを考慮して判断します。
この具体的な内容については追って説明したいと思います。

 

本当に「簡易」的に計算できるものなの?

名前に「簡易」とついてるからといってだまされてはいけません。
簡易課税を選択した場合には、売上を6種類に分類しなければならず、微妙な判断を要求される場合もあり、意外と面倒くさいものです。
売上を6種類に分類しなければならないのは、簡易課税独特の考え方です(原則課税だと分類する必要はありません)。
そういった意味では、本則課税にしろ、簡易課税にしろ、どちらにしても手間はかかります。
大事なのは、本則課税と簡易課税では、シミュレーションすると有利不利が如実に現れるケースがあるので、どちらが有利なのか十分検討する価値があります。

簡易課税の計算方法

では実際に、簡易課税とはどのように計算するのか見てみましょう。
本則課税だと、お客さんから預かっている売上に係る消費税から、既に支払っている仕入や経費に係る消費税を差し引いて、納付する金額を算定します。
一方、簡易課税ですが、先ほど説明したように、売上に係る消費税だけで納税する消費税を計算する方法になります。
詳しく説明しますと、

①お客さんから預かっている売上に係る消費税を業種ごとに分類します。

②その分類した金額それぞれに「みなし仕入率」と呼ばれる割合を掛けます。

③その「みなし仕入率」をかけた金額を、仕入・経費で支払った消費税とみなして、売上に係る消費税から差し引いて、納税する消費税を計算します。

計算式で説明しますと、このようになっています。

原則課税…税抜売上×8%-(税抜仕入&税抜経費)×8%

簡易課税…税抜売上×8%-(税抜売上×みなし仕入率)×8%

上記の計算式から、分かりますように、簡易課税は実際に支払った消費税を、一切考慮しません。
ここが原則課税と簡易課税の大きな違いになっていまして、納付する消費税の金額が大きく異なってきます。
支払った消費税が考慮されないことからも分かるように、仕入・経費に係る消費税が、売上に係る消費税より多い場合でも、還付はできません。
つまり、簡易課税を選択した場合には、必ず納税は発生する、還付はありえない、という点は覚えておきましょう。

みなし仕入率とは

「みなし仕入率」とは、業種ごとに仕入率が決められており、それを売上に係る消費税にかけて、仕入・経費に係る消費税とみなして納税金額を計算します。
例えば、卸売業は売上の90%が仕入・経費としてかかっているとみなして、消費税を計算する、という風にです。

この「みなし仕入率」により、実際に支払った仕入・経費にかかる消費税よりも「みなし仕入率」のほうが高ければ、簡易課税のほうが有利になりますし、一方、実際に支払った仕入・経費にかかる消費税のほうが「みなし仕入率」より高ければ、原則課税のほうが有利になります。

注:平成27年4月1日以後に開始する課税期間(事業年度)から、不動産業は「第5種事業」から第6種事業」に改正されました情報が古いサイトですと、第5種事業のままになっている場合がありますので、ご注意ください。

取引ごとにみなし仕入率の対象となる業種を分類しなければならない

業種ごとにみなし仕入率を分類します、とだけしか書かれていないサイトがありますが、厳密には、一売上ごとに業種の分類を行う必要があります。

例えば、お肉屋さんの場合ですと、

① 切った牛肉を旅館に定期的に個別販売事業者に販売しているので、1種(卸売業)

② 切った牛肉を一般消費者に店頭販売消費者に販売しているので、2種(小売業)

③ コロッケ、メンチカツを自分で作って店頭販売…加工しているので、3種(製造業)

④ 配達用のトラックを売却…1種、2種、3種、5種、6種どれにも該当しないため、4種

⑤ 店舗隣にある駐車場を月極めで賃貸不動産業に該当するので6種(不動産業)

 

このように、「簡易課税」を選択すると、売上を細かく分類しなければなりません。
うちは小売しかしていないから全部2種だよね、といった考え方ではなく、あくまでも一回の売上ごとに分類します。
簡易課税の考え方だと、たとえ主な業種が小売業であっても、例えばコロッケを揚げて販売していればコロッケの売上代金は製造業(3種)に分類されますので、注意しなければなりません。

注意
みなし仕入率は、自分が営んでいる業種で判断するのではなく、一回の売上ごと(一仕訳ごと)に分類する必要があります。

具体的な計算方法

例えば上記のお肉屋さんを例に実際に納付する金額を算定してみます(売上高は税抜)。
簡易課税には特例計算があるのですが、今回は本則課税との違いを分かりやすくするため、売上は全額小売のみ、という想定で考えてみます。

①店頭売上(2種小売)…2000万円(仮受消費税160万円)
②仕入・経費合計…1500万円(仮払消費税120万円)

納付する消費税の計算は、

本則課税
160万円-120万円=40万円

簡易課税
2種…160万円-160万円×80%(2種のみなし仕入率)=32万円

∴40万円>32万円 簡易課税の方が8万円本則課税よりも有利。

上記では、2種(みなし仕入率80%)だから簡易課税が有利になりましたが、もし3種(みなし仕入率70%)の場合には、簡易課税の納税金額は48万円となり、本則課税の方が有利になります。
このように、みなし仕入率によって納税金額が大きく変わってくるのが、簡易課税の特徴です。

簡易課税を選択するために、必要な条件

簡易課税を受けるためには2つの条件を満たさなければなりません。その条件とは、

① 2年前の課税売上高が5,000万円以下であること
② 適用をうける課税期間(事業年度)の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」という書類を税務署に提出していること (ただし開業したばかりの場合には、その課税期間中に提出すればOK。)

この2つを満たしていないと、簡易課税は選べません。
進行年度が始まってから、簡易を受けたい、と思っても、前期までに届出書を提出していなければ、簡易課税の適用は受けられません(開業年度を除く)。

一方、簡易課税適用の届出書を出していて、毎年簡易課税を受けていてもたまたま、2年前の課税売上が5,000万円を超えてしまった場合には、強制的に本則課税となってしまい、簡易課税は受けられません。

 

簡易課税の選択届出書を出すと、不適用届出書を出さない限り、その効果は永久に続く

一度、消費税簡易課税選択届出書を出すと、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」という書類を税務署に出さない限り、その効果は永久に続きます。
来期は設備投資をするから、本則課税で還付を受けようと思っても、「不適用届出書」を本則課税の適用を受けようとする課税期間の前日までに出さなけば、課税売上が5,000万円超でない限り、強制的に「簡易課税」で申告しなければなりません。
ここは非常に気を付けていただきたいところです。
届出書を提出した履歴(届出書の控えなど)は必ず残しておくことがポイントです。

注意
消費税簡易課税制度選択適用届出書は、「不適用」届出書を出さない限り、効力が持続。
簡易課税を辞めたい場合には、必ず「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出すること。
また、何の届出書を税務署に提出したのか、控えを取っておくこと。

簡易課税のメリット・デメリットとは

簡易課税のメリットを受けやすい業種

一般的に、経費がかからない業種であったり、消費税の対象外となっている人件費の支払が多い業種が、「簡易課税」有利と言われています。
例えば、経費がかからない業種で最たる例ですと、不動産賃貸業WEB関係なんかが該当します。
また、経費のうち、人件費の支払が多い業種ですと、弁護士・司法書士などの士業や、医療系や、塾・家庭教師は簡易有利になりやすいです。

簡易課税のメリットを受けにくい業種

一概に言えないのですが、「みなし仕入率」に比較して、原価率+消費税が係る経費率が高いケースの場合には、本則課税の方が有利になります。ここは個別判断になりますので、実際に計算してみなければ何ともいえないと思います。

簡易課税のデメリットとは

①仕入・経費に係る消費税を考慮しない計算のため、還付を受けられない。

簡易課税という制度自体、売上に係る消費税しか考慮しないため、仕入・経費に係る消費税をどんなに支払ったとしても、還付は受けられません。
開業すぐで売上がたつ見込みがない場合や、設備投資を考えている場合には、仕入・経費に掛かる消費税の方が、売上に係る消費税よりも多くなる場合があります。
このようなケースでは、本則課税を選択したほうが有利といえるでしょう。

②簡易課税を選択すると最低2年間は継続しなければならない

簡易課税は2年間継続しなければなりません。簡易課税で1年計算したのち、設備投資したいからやっぱり本則に戻りたい、と思っても戻れません。もう1年簡易課税を継続しなければなりません。
また、その簡易課税の継続期間中に、「消費税簡易課税選択不適用届出書」を提出することを忘れないようにしましょう。

まとめ

今回は簡易課税制度について、説明しました。
税金関係の届出書の中で、消費税の届出書が一番気をつかいます。
届出書一枚で、納税金額がかなり変わってきますので、出すことによるメリットやデメリット、届出書を出さなければならない期日や、効果がいつまで続くのか、といったことをきちんとご理解いただければと思います。
そして、提出した届出書の履歴は必ず残しておきましょう。

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小幡剛史(おばたたけし) 1984年5月15日生 2018年12月に独立した30代のさいたま市浦和区の税理士です。 クラウド会計を活用して経理効率化が得意です。 二児の父です。 週末はスーパーに開店前から並んで、賞味期限ギリギリ激安おつとめ品をゲット!することが最近のマイブームです。 趣味はバイク(ゼファー750RS)・写真(NikonD610)・家庭園芸・DIY・レザークラフト・山登りです。